2015年10月25日日曜日

垣根涼介『ワイルド・ソウル』

人間の歴史の負の側面、戦争や奴隷制度や先住民虐殺等々をどう引き継いでいくか、というのはとても難しい。事実として教え教わることはできるけれど、自分に連なることとして考えて引き受けていくということになると、そこには何か”経験”が必要となってくる。

文学も、大いにその”経験”としての役割を担っている。垣根涼介『ワイルド・ソウル』で取り扱われているのは戦後の悲惨なブラジル移民政策である。からっとしたラテン気質と狂暴さと、日本の組織社会を基調とした雰囲気の対決、が物語として成功している。重たいテーマだけれど、読後感は爽快で救われた。
大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞の3冠受賞。

 

フェアバンクス

昨年2014年のタルキートナからまた少し北上して、フェアバンクスにやってきました。

なるほど、南東アラスカとはまた違う。さすがにアラスカ第2の都会だけあり、車がたくさん走っている。大きなショッピングモールのようなのが2か所もある(これは最近できたらしい)。インフォ(Morris Thompson Culture and Visitor Center)の建物には映像、パンフレット類などの情報が充実していて逆にうろたえる(南東アラスカの町々ではインフォは閉まっているかほこりをかぶった紙が雑然とあるくらい)。それでもそこはアラスカ、原野を目指す小型飛行機の音が聞こえてくると、ああ帰ってきた、という不思議な安心感をおぼえました。

 


アラスカ大学フェアバンクス校(UAF)は郊外の丘の上に散らばっています。何か公開プログラムに参加できればと思ったものの、シーズンオフということもありなかなか見当たらず。
UAF敷地内にあるMuseum of the Northには星野道夫の写真が飾られていた。あの、夕刻に渡渉するカリブーの写真。
モダンで洗練された建物に少々とまどいを感じながらも、自らの志向を意識して大事にしたいと思う。






おそらく若手の撮った極北にあるアルゲリッチの写真も今回見たが、キャプションに、ここにたどり着くにはすごくお金がかかる、と書いてあって、何かとても残念な気がした(日本人の感覚とはまた違うのかもしれないけれど)。高いとか安いとか、本来相対的で単なる物差しのはずが、判断の前面に出てくると関係性がおかしくなってくる。はたしてアラスカに来るのは安いでしょうか、それとも高いでしょうか?