2013年5月26日日曜日

井上ひさし『一週間』

文庫新刊コーナーをうろうろしていたら、2010年に亡くなった井上ひさし氏の遺作『一週間』が出ていて、一気に読みました。

第二次世界大戦後、ソ連全土にちらばる日本人捕虜収容所にむけて作成される「日本新聞」を担当することになった、ロシア語に通じる日本人捕虜を主人公にした話です。

なぜシベリア抑留は長期化したのか、その実態はどのようなものだったのか・・・作者が他の作品も含めて挑んできたテーマとする戦争問題は重いもので、作品内で登場人物に語らせる話も、現代に生きる一人として身につまされるものがあります。

でもこの作品が、テーマが複雑すぎて放り出したくなるどころか、ぐいぐい引きこませるのは、ユーモアにあふれているからだと思います。ロシア人の小噺好き、グルメで大食漢な話、も随所に描かれています。戦中戦後の混乱期、表や裏で動き回った傑物・怪物たちも登場、もちろんロマンスもあるなど、劇作家井上ひさしの遺作に出会えてよかった、としみじみ思いました。