2012年9月23日日曜日

アジェンデ『精霊たちの家』

冬の静かな屋久島の小さな図書室でアップダイクの『ブラジル』に出会って、今まで読んだことのない南米を舞台にした物語になんだこりゃ、と圧倒されたのが南米文学との出会いの始まりでした。
アップダイクはアメリカの作家ですが、『クーデター』もアフリカを舞台にしているし、その土地のエネルギーを利用した物語の作り手です。

さてアジェンデの『精霊たちの家』。
南米チリを舞台にした物語は、伝説のような際立った人物とストーリーではじまり、やがて現代の恐怖政治へと流れていきます。美少女ローサ、スピリチュアルなクラーラ、情熱的なブランカ、そして現代のアルバ。ひとつのエピソードがまるで勝手に膨らんでいって、お、そうじゃったそうじゃった、と一見もとのところに戻ってくるような語りが絶妙です。

未来は今起こっていることに少しずつ、織り込まれている、そういったことに思いを至らせ、ただ非現実の世界に遊ぶのではないクラーラと、軍事政権化の不合理に押しつぶされるアルバの物語は、昔のこととは片付けられない中南米で苦しんだ人たちに求められた物語だったように思いました。