2014年6月29日日曜日

モーム『アシェンデン 英国情報部員のファイル』

今年(2014年)は第一次世界大戦勃発(1914年)からちょうど100年の年、ということに気がついたのはサマセット・モームの『アシェンデン 英国情報部員のファイル』を読んでいたときです。モームが情報部員、英国スパイであったことはどこかで覚えていたものの、画家ゴーギャンの人生を描いた『月と六ペンス』や『人間の絆』など、国民作家という印象が強くて、スパイのイメージからは遠いものでした。でもこの『アシェンデン』を読んで納得がいきます。スパイ活動は人間観察のたまものであり、モームはそこに飛びぬけた才能を持っていた。

内容は、さまざまな国・土地を舞台にした諜報活動の短編を集めた話です。読み進めていくと、モームがいかに人間観察を楽しんでいたかに引き込まれます。第一次世界大戦の主軸(対ドイツ)はもちろんのこと、その舞台を取り巻いていた動乱―大英帝国からのインド独立運動やロシア革命―にかかわっていたのは、具体的な一人ひとりの人間であることがよくわかります。

人間の複雑性への追求、客観的ながらも、実に追い詰めていくアシェンデン。

読後なぜか元気になる本です。