2014年7月29日火曜日

茂木健一郎『熱帯の夢』

ニュージーランドの森の中で、くるくるとらせんを描くように舞い交わす小さな鳥たちを見たことがあります。
ファンテイルというその名のとおりの大きな扇のような羽を蝶のようにひらめかし、空気に遊びながらくるくると飛び回る鳥たちは夢のようだった。ちょうど森の中を抜ける未舗装の工事中の道路をキャンプサイトまで重い荷物を汗だくになりながら歩いていたところで、お目当ての虫がたくさんいるのだろう、人が近寄っても逃げようともしない。飛ぶというより舞い降りるファンテイルを見つめた瞬間は、ニュージーランドの森への洗礼を受けたようなものだった。

茂木健一郎『熱帯の夢』は、かつて昆虫少年だった脳科学者が、尊敬する動物学者・日高敏隆氏とコスタリカを旅した記憶です。講談社新書ビジュアル版として、中野義樹氏の写真も著者の思考を追いかける助けとなっていて、人工衛星からもその青い輝きが確認できるといわれるモルフォ蝶へのあこがれを知ることができます。
森の中を行進するハキリアリとの出会いでは、脳科学における「インアテンショナル・ブラインドネス」を引き合いにしています。視野の中に見えているはずの変化に気づかない、意識が向かない、覚醒すればこんなに不思議なことはない、と。こういう経験はよくわかる。同じ世界を見ているはずなのに、心は別々のものを見ている。

コスタリカの森に住む世界でいちばん美しい鳥「ケツァール」へのあこがれ。あこがれは旅を引っ張って熱帯の森への意識を開かせてくれる。時に少年時代・青年時代に記憶が行き交う熱帯の夢の本です。