2014年1月31日金曜日

服部文祥『百年前の山を旅する』

服部文祥氏の『百年前の山を旅する』が新潮文庫になっていました。

テントやコンロ、ガスなどの燃料は持たずに山に入り、岩魚や鹿を獲る”サバイバル登山家”の著者が、登山黎明期に山を歩いた人たちの記録に魅了され、同じ道を歩いて感じたことをまとめたものです。当時の装備を身につけ、彼らが歩いたであろう古い道をさがしてたどり、何を見何を感じたかを求めて歩いています。

表紙写真にもなっている「ウェストンの初登攀をたどる」ではウォルター・ウェストンと上條嘉門次による奥穂高南陵初登攀(1912年)の旅を求めて、廃材と藁紐で背負子をつくり、脚絆を巻き、「最低限の装備を載せた背負子に笠をくくりつける」といった具合です。古道をたどり穂高の岩峰を登る中で、登山家の著者にとって慣れ親しんだ穂高が新鮮な喜びとなっていました。

ただ真似て昔の山旅を羨むのではなく、その過程で初期の登山家たちの自由な精神を著者自身も深めていくのが伝わります。

どこにもそんなことは書いていませんが、これは読むだけで終わる本じゃないかもしれない。読んでしまったあなた自身さてどんな山旅をしようとしている?と挑戦している本のような気がしました。

著者の服部文祥氏のロシア極東北極圏をトナカイ遊牧民と旅した話は「岳人」でちょうど連載されています(2014年1月号~超・登山論ツンドラ編)。デルスウ・ウザーラとナンセンにあこがれた著者の遊牧民紀行は全然ロマンチックではない現実的な有象無象で始まっていて、それはそれでおかしい。トナカイ遊牧民のトナカイ解体の話になると”サバイバル登山家”としてレポートが冴えます。