2012年2月28日火曜日

ル・グウィン『西のはての年代記』

人生で、もし出会わなかったらあまりにもおしいものの一つはル・グウィンの「ゲド戦記」シリーズだと思っています。物語の喜びはどんな経験にもかえがたいことを教えてくれる本です。

「西のはての年代記」シリーズ『ギフト』『ヴォイス』『パワー』の3部作が完結したのはル・グウィン78歳のときです。

『ヴォイス』では詩というものが”うた”としていかに力を持ち、人々を動かすものであるか、考えさせられます。
それでもやはり最後の『パワー』にこの「西のはて」の要はあるのでしょう。主人公は奴隷の少年。いい主人に恵まれていると信じている、奴隷の少年です。その少年が森や山や沼地を旅していくのですが、少年が成長する冒険物語としてはあまりにもうまくいかないことばかりが続きます。

 ル・グウィンはどこまでも厳しい。ゲド戦記でもそうですが、ル・グウィンは人間の悪を徹底的に書く作家です。主人公がくたくたになる。大賢人ゲドでも王子でも奴隷でも。それでもふらふらと歩いていく、そんなときにそばにいるのがなんらかのハンデを負っている人たちであるということが、著者が読者に与えている問いかけなんだと思います。