2012年3月17日土曜日

堀田善衞『キューバ紀行』

旅に行くときに、書店にならんでいるガイドブックになかなか手が伸びません。きれいに整理されすぎていてどうもおもしろくない。電車の時刻表のような、膨大なデータをまとめたガイドブックならほしい。

いったいなんなんだ、という姿勢で、見て歩いて考えて人に会って会話もそのまま残してくれた作家がいました。元気がほしいとき、ちょっとゆきづまって突破力がほしいときに読み返す作家です。堀田善衞さん。

代表的な作品は、今でもよく引用される『インドで考えたこと』ですが、『キューバ紀行』もおすすめです。「チャチャチャのリズムにのせて行われた」キューバ革命から10年も経たない1964年にキューバを見て歩いた紀行文。

フィデル!とキューバの人々から呼び捨てにされる若いカストロ首相の野外演説会場での話や、アメリカの植民地的裏庭からの脱出、という宿命的な革命後の国づくりのため、すべて”勉強中”のキューバのあっけらかんとした人たちの話に著者とともに引き込まれます。
革命がいやで逃げたという人たちも少なくなく、でもその人たちのことを悪く言わない。

カストロたちがたてこもったシエラマエストラ山は、革命後学校になっていて、山道の悪路をぶっ飛ばして著者はでかけていく。かつて独裁政権の将校たちから弾薬などを失敬して売春婦たちが運んだゲリラの山は、1000m以上の山岳要塞だったことをはじめて知った。

キューバという小国から大国アメリカに向けられる、生きた、生き抜いた沢山の視線を著者は教えてくれました。